ご挨拶

家族や大切な方が突然の病気やケガで救急受診をすることになったときには、どんな人でも不安になるものです。しかもそれが重症で、患者さん本人と意思の疎通ができない場合には、その家族や関係者の方には強い不安が生じます。急なことで心の準備ができておらず情報も少ししかないところに、自らは何もできない無力感や恐怖、悲しみや絶望など様々な思いが湧いてくるのは当然のことかもしれません。そして、患者さんの命に直結する意思決定を求められることもあります。

一方で救急部門にいる医療者側は、わずかな患者情報しかないなかで、生理学的・解剖学的所見から直ちに診療方針を決めて、確定診断をまたずに病態の安定化を進めていきます。患者さんとの意思の疎通ができず、家族や関係者もいない状況では、同意を得ずに標準的な治療を進めることもあります。

しかし救急・集中治療においては、重症ゆえ救命が困難となる状況が起こります。
　そのとき、こうした家族や関係者の方に初期から寄り添い、時間に追われる医療者との間に入って、その不安や疑問をていねいに医療者につないで解決していくことによって、関係者全員が十分に納得のいく形で入院治療を継続できる調整役として、医療メディエーター（医療対話仲介者）が重要なものとなります。

医療メディエーターは、医療機関における苦情や事故発生時の初期対応として、メディエーションの考え方で対話促進・問題解決を図るものとして導入され、日本医療メディエーター協会を中心にその養成や研鑽、研究推進などの活動が進められています。

こうした状況を受け、われわれの研究班では、救急・集中治療領域における時間的な制約、家族・関係者の強い不安、乏しい患者情報といった特殊な状況下で活動できる入院時重症患者対応メディエーター（仮称）の研修プログラムの準備を進め、2019年〜2020年初頭にかけてパイロット版講習会を２度開催しました。

研修プログラムは講義とワークショップで構成されており、ワークショップではロールプレイとグループディスカッションを行いますが、2020年からの新型コロナウイルス感染症流行に伴い、対面での講習会実施が困難となる場合があることをふまえ、オンライン開催も含めた講習の開発と運営を進めております。

本講習会が、実際の診療現場で対応される皆さまのお役に立ち、患者さんや家族・関係者の方、そして担当する医療者にも満足していただけることを期待しております。

2022年2月

三宅 康史（帝京大学医学部救急医学講座）

厚生労働科学研究（移植医療基盤整備研究事業）脳死下、心停止後の臓器・組織提供における
効率的な連携体制の構築に資する研究（研究代表者 横田 裕行）
分担研究：重症患者対応メディエーター（仮称）のあり方に関する研究

日本臨床救急医学会 教育研修委員会 入院時重症患者対応メディエーター養成小委員会委員長

※本ウェブサイトの教材を視聴、組織内での勉強会などに用いることは制限しませんが、講習会として実施される場合にはご一報をいただければと存じます。また、商用での利用は禁じます。